ママを選んできたよ

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  • 神様という言葉の陳腐さをあざ笑っていた時期がある。信仰熱心でもないのに、キリスト教系の学校に通学していたのに起因するが、生まれついての虚弱が精神を蝕み、なにごとも上手くいっているかのように見えた周りの同級生たちを、「神様は不平等だ」と眺めていたのがどこかに残っていたのだろう。

     

    そんな私が、神様というものを意識せざるをえない出来事に遭遇した。妊娠したのだ。忘れもしない。つわりで苦しみ、内耳に異変が起きたため、頭の位置を動かすだけで視界に入るものすべてが上下しだし、グワングワン頭を揺さぶられているような眩暈に襲われ、自分の意志とは反し、身体も頭も疲れ果てベッドに横になってばかりいたあの頃。

     

    今思えば会社を辞め、フリーランスになる前に、気合いを入れるために滝行に行ったのが運の尽き。仕事ではなく、子供に恵まれたのだ。

     

    妊娠初期の頃は、仕事を辞めたばかりだったので「何か始めなくては」と焦っていた。しかし、体調がついていかずに、やりたい事もできないジレンマに押しつぶされそうに何度もなった。そんな時に、気晴らしで読んだマタニティ雑誌。そこに付いていた絵本にこう書いてあった。

     

    「ママを選んできたよ」

     

    いったい、どうやったらそんな能天気な事が言えるのか。当時の私はそう心の中で、悪態をついた。妊娠を経験したら自然と優しくなれるわけではない。産休ぎりぎりまで仕事をしていた妊婦のSNSを見るたびに、産科に向かう緩やかで長い坂道を上るだけで息が上がりそうになった自分を悲しく感じた。

     

    「本当に娘は、私を選んでやってきたのだろうか?」

     

    確かに、ある日、娘はやってきた。私たちの元に。出産後の入院期間は、母子同室だったので、授乳やおむつ替えやらすべてを自分でやらねばならず、一日単位の区切りで時間を感じることが全くできずに、ずっと起きたままで合間に寝るような地続きの日々だった。

     

    残った水滴をすべてスポイトで吸い取ったみたいな、抜け殻のようなボロボロな体の私だったが、いよいよ退院の日を迎えた。娘に白いセレモニードレスを着せた。わずか45cmほどの小柄な体長の娘は、すっぽりと白いサテンのドレスに埋まっていた。

     

    「可愛い。天使だ」

     

    あれれ、あなた、神様や天使というような言葉、苦手だったはずなのでは。軽々しく口に出すのは憚られると、周りを見ては嘲笑していたのではないのですか? それが今や、もう、目の前にやってきた娘を例えるなら、天使という言葉しかないのだ。神様にだって感謝しばなしだ。娘と出会えたことに。

     

    ずっと、娘に聞いてみたいことがあった。俗説だが、胎内記憶が残っているのは3歳くらいまでだと言う。やっと自分の意志や記憶を言葉で表現できるように、少しずつだがなってきている娘に聞いてみた。

     

    「なんで、ママのところに来たの?」

     

    娘は言う。「面白そうだったから」。神様がいるのなら伝えたい。ママが面白いのではないよ、あなたが毎日、私たちに面白い日々をプレゼントしてくれているのだよ、と。

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    RIZENE IKEMORI

    RIZENE IKEMORI

    ライター&脚本家。「絶叫2」(オリジナルホラービデオ)、グラドル浜田翔子原案・監督「一瞬と永遠」脚本担当。書籍やweb媒体を中心にライターとして活動。趣味はプロレス観戦。

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